裁判における過失割合の発想
過失相殺による損害の公平な分担
交通事故の損害賠償は、民法が定める不法行為の制度(民法709条以下)であり、被害者の救済を目的とするとともに、「損害の公平な分担」を図ることを理念としています。
そして、過失割合による過失相殺(民法722条2項)は、その「損害の公平な分担」を趣旨とするものです。
裁判に限らず、もともと法律がもっている趣旨なのですが、特に交通事故の裁判で、この過失相殺による「損害の公平な分担」の発想が強調されることがあります。
そのような事例として、実際に当事務所が体験したケースをご紹介します。
(なお、ここでご紹介する考え方が常に適用されるというわけではありません)
合流で本線側の過失50%
高速道路から出てきた車両が一般道(本線)に合流する地点で、本線側の車両と合流車が接触した事案で、裁判所から、本線側車両と合流車との過失割合を50対50とする和解案が示されたことがありました。
本線ドライバーの側に立つと、合流地点を丁字路とみても、あるいは少し並走してから合流するのであれば進路変更とみても、合流車の過失が大きいと感じる方が多くいらっしゃるのではないでしょうか。
しかし、以下のような事情があって、裁判所は50対50を提示しました。
渋滞中で前方では交互に合流していた
この事案では、事故が起きる前、高速道路から出てきた合流車の側も本線側も、ともに渋滞していました。
そして、前方で、本線側が一台前進したら合流側から一台が入るという、一台ずつ交互に合流することが繰り返されていたところでした。
譲り合って合流すべきとの発想
そして、この接触事故を起こした本線側の車両は、その一台前の車両が合流車を一台入れてあげてから前進した後、次に来た合流車を入れまいとして、加速しました。
そこへ、道を譲ってもらえると思った合流車が前進してきて接触したのです。
裁判所は、この状況を踏まえ、「互いに譲り合って合流すべきだった」として、「損害の公平な分担」の観点から、過失割合50対50を提示したのでした。
逆突された側の過失30%
2台の車両が前後に縦列して停車していた状態から、前の車両がバックして後ろの車両の前部に衝突した、いわゆる「逆突」の事案で、裁判所から、逆突された側の過失割合を30%とする和解案が示されたことがありました。
両車両は道路の右端に停車し、間隔は3メートルほどあったのですが、逆突された側に立つと、自分に過失はないと感じられることが多くないでしょうか。
しかし、裁判所は、以下のような理由から、逆突した側70%、逆突された側30%とする過失割合を提示しました。
追突と異なり逆突では相手が見える
この事案で裁判所は、逆突された車両の過失として、まず、①クラクションを鳴らさなかった、②逃げることができたのに逃げなかった、という点を挙げました。
これらは、後ろから来た車による追突と異なる観点になります。
すなわち、逆突された側は、前からバックしてくる車両が見えており、にもかかわらず上記①②を実践しなかったことを直近の過失ととらえたものです。
走行位置も理由に
さらに裁判所は、上記の①②に加えて、③現場に停止する手前で道路の左側を走行していなかったという理由も挙げて、逆突された側の過失を30%としました。
逆突された側にとって直近の過失ではないですが、これについても「損害の公平な分担」の観点から斟酌すべきという裁判所の考え方でした。
このページの著者
弁護士 滝井聡
神奈川県弁護士会所属
(登録番号32182)