可動域制限の後遺障害
関節の可動域制限で動作に支障
可動域制限とは、手や足などの関節の動く範囲が制限される障害です。
交通事故では、可動域制限の後遺障害が残って日常の動作に支障をきたすことがあります。
可動域制限の後遺障害が生じる原因としては、骨折の変形癒合、靱帯・腱・筋肉の損傷、神経麻痺、人工関節や人工骨頭の挿入・置換などが挙げられます。
上肢(肩・ひじ・手首)、下肢(股・ひざ・足首)の各関節に関し、可動域制限の判定と、可動域制限の後遺障害等級を解説します。
可動域制限の判定
可動域制限の後遺障害は、患側の関節の可動域角度を健側と比較することで判定します。
その可動域角度については、「主要運動」の「他動値」を測定するのが原則とされています。
ただし、健側の関節にも可動域制限がある場合は、平均的な可動域角度(参考可動域角度)と比較することになります。
可動域制限の判定要素「他動値」
可動域制限の判定において、可動域角度の「他動値」とは、医師が手を添え動かして測定した角度のことです。
他方、患者が自分で動かかしたときの角度を「自動値」といいます(例外的にこちらを用いることもあります)。
可動域制限の判定要素「主要運動」
可動域制限の判定において、関節の「主要運動」とは、運動方向が複数ある場合に、その中で日常の動作にとって最も重要な運動方向のことです。
例えば、肩関節の場合、腕を頭上へ持ち上げる動作(屈曲、外転)が主要運動とされています(内転もありますが、その可動域角度は通常0です)。
それ以外の運動方向は「参考運動」といいます。
同一平面上の可動域角度(屈曲と伸展、外転と内転など)は合算した数値を用います。
各関節の主要運動
上肢の肩関節・ひじ関節・手首、下肢の股関節・ひざ関節・足首について、可動域制限の後遺障害の判定要素となる主要運動は以下のとおりとされています。
「参」の欄は、参考可動域角度です。
肩関節
主要運動 | 概略 | 参 |
屈曲 (前方挙上) |
腕を下げた状態から前方へ挙げる | 180 |
外転 (側方挙上) |
腕を下げた状態から外側へ挙げる | 180 |
内転 | 腕を下げた状態から体の方へ動かす | 0 |
ひじ関節
主要運動 | 概略 | 参 |
屈曲 |
腕を下げた状態からひじを前方へ曲げる | 145 |
伸展 |
腕を下げた状態からひじを後方へ曲げる | 5 |
手首
主要運動 | 概略 | 参 |
屈曲 (掌屈) |
手首を伸ばした状態から掌側へ曲げる | 90 |
伸展 (背屈) |
手首を伸ばした状態から甲側へ曲げる | 70 |
股関節
主要運動 | 概略 | 参 |
屈曲 | 仰向けの状態で足を挙げる | 125 |
伸展 | うつ伏せの状態で足を挙げる | 15 |
外転 | 仰向けの状態で足を外側へ動かす |
45 |
内転 | 仰向けの状態で足を内側へ動かす | 20 |
ひざ関節
主要運動 | 概略 | 参 |
屈曲 | ひざを曲げる | 130 |
伸展 | ひざを伸ばす | 0 |
足首
主要運動 | 概略 | 参 |
底屈 (屈曲) |
足首を底側へ動かす | 45 |
背屈 (伸展) |
足首を甲側へ動かす | 20 |
参考運動による可動域制限の判定
可動域制限の判定では主要運動の可動域角度を用いるのが原則と上で述べましたが、例外的に、参考運動を用いる場合があります。
それは、患側の主要運動の可動域が、上記の「2分の1」または「4分の3」をわずかに上回る場合で、その場合は参考運動の可動域が2分の1以下または4分の3以下に制限されていれば、当該等級を認定するとされています。
そこにいう「わずかに上回る場合」とは、上肢・下肢の場合、肩関節の屈曲・外転、手首の屈曲・伸展、股関節の屈曲・伸展については10度、それ以外の関節の主要運動については5度上回る場合とされています。
上肢・下肢の関節の参考運動は、以下のとおりです。
(概略の欄は、正式な測定方法を平易に言いかえてあります)
部位 | 参考運動 | 概略 |
肩関節 | 伸展 | 腕を下げた状態から後方へ挙げる |
外旋・ 内旋 |
肘を体に付けて腕を外側・内側へ動かす | |
ひじ関節 | なし | |
手首 | 橈屈・ 尺屈 |
手首を伸ばした状態で左・右へ曲げる |
股関節 | 外旋・ 内旋 |
仰向けの状態で足を外側・内側へ動かす |
ひざ関節 | なし | |
足首 | なし |
可動域制限の後遺障害等級
上肢(肩・ひじ・手首)と、下肢(股・ひざ・足首)の関節可動域制限について、後遺障害等級の内容と認定基準をご案内します。
上肢(肩・ひじ・手首)
肩関節・ひじ関節・手首は上肢の3大関節と呼ばれ、可動域制限がそれらの全部または一部に残った場合の後遺障害等級は、以下のとおりとされています。
両上肢の用を全廃 | 1級4号 |
1上肢の用を全廃 | 5級6号 |
1上肢の3大関節中の 2関節の用を廃した |
6級6号 |
1上肢の3大関節中の 1関節の用を廃した |
8級6号 |
1上肢の3大関節中の 1関節の機能に 著しい障害を残す |
10級10号 |
1上肢の3大関節中の 1関節の機能に 障害を残す |
12級6号 |
上肢の可動域制限の後遺障害認定基準
ア 1級・5級の「上肢の用を全廃」とは、肩関節・ひじ関節・手首のすべてが強直し、かつ、手指の全部の用を廃したものをいうとされています。
上腕神経叢の完全麻痺もこれに含まれます。
イ 6級・8級の「関節の用を廃した」とは、次のいずれかに該当する場合とされています。
a 関節が強直した。
ただし、肩関節にあっては、肩甲上腕関節が癒合し骨性強直していることがX線写真により確認できるものを含む。
b 関節の完全弛緩性麻痺又はこれに近い状態にある。
「これに近い状態」とは、他動では可動するものの、自動運動では関節の可動域が健側の可動域角度の10%程度以下となったものをいう。
c 人工関節・人工骨頭を挿入置換した関節のうち、その可動域が健側の可動域角度の2分の1以下に制限されている。
ウ 10級の「関節の機能に著しい障害を残す」とは、次のいずれかに該当する場合とされています。
a 関節の可動域が健側の可動域角度の2分の1以下
に制限されている。
b 人工関節・人工骨頭を挿入置換した関節のうち、上記イ
のc以外。
エ 12級の「関節の機能に障害を残す」とは、関節の可動域が健側の可動域角度の4分の3以下に制限されているものをいうとされています。
下肢(股・ひざ・足首)
股関節・ひざ関節・足首は下肢の3大関節と呼ばれ、可動域制限がそれらの全部または一部に残った場合の後遺障害等級は、以下のとおりとされています。
両下肢の用を全廃 | 1級6号 |
1下肢の用を全廃 | 5級7号 |
1下肢の3大関節中の 2関節の用を廃した |
6級7号 |
1下肢の3大関節中の 1関節の用を廃した |
8級7号 |
1下肢の3大関節中の 1関節の機能に 著しい障害を残す |
10級11号 |
1下肢の3大関節中の 1関節の機能に 障害を残す |
12級7号 |
下肢の可動域制限の後遺障害認定基準
ア 1級・5級の「下肢の用を全廃」とは、股関節・ひざ関節・足首のすべてが強直した場合とされています。
なお、それに加え、足指全部が強直したものも含まれます。
イ 6級・8級の「関節の用を廃した」とは、次のいずれかに該当する場合とされています。
a 関節が強直した。
b 関節の完全弛緩性麻痺又はこれに近い状態にある。
「これに近い状態」とは、他動では可動するものの、自動運動では関節の可動域が健側の可動域角度の10%程度以下となったものをいう。
c 人工関節・人工骨頭を挿入置換した関節のうち、その可動域が健側の可動域角度の2分の1以下に制限されている。
ウ 10級の「関節の機能に著しい障害を残す」とは、次のいずれかに該当する場合とされています。
a 関節の可動域が健側の可動域角度の2分の1以下
に制限されている。
b 人工関節・人工骨頭を挿入置換した関節のうち、上記イ
のc以外。
エ 12級の「関節の機能に障害を残す」とは、関節の可動域が健側の可動域角度の4分の3以下に制限されている場合とされています。
このページの著者
弁護士 滝井聡
神奈川県弁護士会所属
(登録番号32182)