脊柱変形
センター南 横浜都筑法律事務所

脊柱変形

脊柱変形の逸失利益

逸失利益の労働能力喪失に争い


脊柱変形の後遺障害逸失利益については、逸失利益の算定要素である労働能力喪失の有無や程度に関し争いになることがよくあります。

その場合の加害者側の主張は、脊柱の変形自体によっては労働能力の喪失がなく逸失利益は認められない、あるいは、労働能力喪失率を等級より低く評価して逸失利益を算定すべきなどとするものです。

しかし、脊柱には体幹を支持するという重要な機能があり、脊柱変形の逸失利益に関しては、この支持機能への支障の程度を考慮する必要があります。

また、逸失利益の検討において、脊柱変形による運動機能への支障も問題となりえます。


こうした脊柱変形による逸失利益の問題を考える材料として、裁判例をご紹介します(要点の抽出で、省略したところはあります)。



脊柱変形の逸失利益①等級通りの認定例


脊柱変形の逸失利益について、労働能力喪失率を後遺障害等級の通りに認定した裁判例をご紹介します。

東京地方裁判所・平成22年3月15日判決

(自賠責の後遺障害認定は脊柱変形につき8級相当、他との併合7級)


脊柱にかかる後遺障害については、運動障害、変形障害、荷重機能障害とに区分した上で認定基準が設けられており、脊柱の変形障害は、それが脊柱の支持機能・保持機能を害し、労働能力に影響を与えるものである点に着目したものである

そうすると、胸椎の変形障害が脊柱の運動にほとんど影響しないとしても、それが労働能力を喪失しないことに繋がるものではない、

むしろ、前方椎体高が後方椎体高の50%以下に変形したものは、中程度の変形を残すものとして、自動車損害賠償保障法施行令別表第二第8級相当としてとして扱われており、

それが、体幹支持ないし保持機能を大きく損ねるものである以上、原則として、対応する労働能力喪失率表どおり、45%の労働能力喪失を認めるのが相当である。

横浜地方裁判所・平成28年3月14日判決

(自賠責の後遺障害認定は脊柱変形につき11級、他との併合10級)


被告らは、脊柱変形自体による労働能力喪失はないと主張するが、

原告の脊柱変形は体幹の支持機能を担っている胸椎の圧迫骨折による器質的損傷に基づく障害であり、本件において、その支持性の低下が明らかに軽微であるとまではいえない

原告の年齢、仕事内容、痛み等の症状の状況等に鑑みても、現に生じている症状が今後軽減する蓋然性があることは明らかでない


脊柱変形の逸失利益②等級より低い認定例


脊柱変形の逸失利益について、労働能力喪失率を後遺障害等級より低く認定した裁判例をご紹介します。

名古屋地方裁判所・平成28年3月18日判決

(自賠責の後遺障害認定は8級相当)


現時点においては脊柱の変形そのものによる労働能力の低下が顕在化しているということはなく、労働能力に影響し得るのは専ら変形した胸椎周辺の疼痛、すなわち局部の神経症状ということとなる。

そうすると、・・・第8級の後遺障害に相当する45%もの労働能力喪失があるとまで認めることはできない。

もっとも、体幹の中心を支える脊柱が恒久的に変形してしまったことにより、今後、加齢により新たに痛みが生じたり、変形の度合が強まったりするおそれは多分にあり

・・・第12級の後遺障害に準じた評価・・・をすれば足りるともいい難い。

これらの事情を踏まえ、原告に現に生じている労働能力低下をもたらす症状を別表第二第12級13号に準じて捉えつつも、将来の悪化を見込んで、1等級加えた第11級の後遺障害に相当するものと認めることとして、

20%の労働能力を喪失したものと認めることとする。

東京地方裁判所・平成30年4月10日判決

(自賠責の後遺障害認定は脊柱変形につき8級相当、他との併合8級)


脊柱の機能には支持機能と運動機能があり、脊柱の不安定性は腰背部痛等の神経症状を惹起することがある

原告の脊柱には後彎が生じ、症状固定後も腰痛が継続していて、長時間の立位、走行、前屈が困難であり、原告の脊柱の支持機能及び運動機能には相応の支障が生じているといえ、日常生活動作や立位での業務を伴う教師の仕事に支障を及ぼすものといえる。

他方で、・・・本件事故による骨折部分の骨癒合は良好で、・・・脊柱の支持機能及び運動機能は相当程度維持されているといえる。

以上の事情のほか、本件事故による非器質性精神障害の症状等をふまえると、原告の労働能力喪失率は35%と認めるのが相当である。


脊柱変形の逸失利益③逓減の認定例


脊柱変形の逸失利益について、労働能力喪失率の逓減を認定した裁判例をご紹介します。

東京地方裁判所・平成27年2月24日判決

(自賠責の後遺障害認定は脊柱変形につき11級、他との併合10級)


原告には、後遺障害等級表11級7号に相当する脊柱の変形障害、後遺障害等級表12級6号に相当する右手関節の可動域制限及び右手首痛が残り、これらを併合すると、後遺障害等級表10級に相当することが認められる。

ただし、原告が若年であること及び現在首の疼痛は弱まっていること・・・からすると、脊柱変形による疼痛は次第に緩解するものと認められる

以上によれば、労働能力喪失率及び労働能力喪失期間については、症状固定日から10年間は27%、その後10年間は22%、その後20年間は17%とするのが相当である。



このページの筆者弁護士滝井聡の顔写真
このページの筆者
  弁護士 滝井聡
  神奈川県弁護士会所属
    (登録番号32182)